【後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)】ライブという文化を開かれた場所にするために。

ライブハウスでスピーカーの前に子どもがいる光景を見たことではじまったアジアン・カンフージェネレーションのライブでのイヤーマフの貸し出し。ライブを開かれた場所にするための優しさの武器。


聞き手・文 = 菊地 崇(JMFA会長)
写真 = 伊藤 愛輔


––– ASIAN KUNG-FU GENERATION(アジカン)のライブで、子ども用イヤーマフの貸し出しをしていると聞きました。貸し出しをしたきっかけはどういうものだったのですか。

 数年前にアジカンでライブハウス・ツアーを行ったんですね。開演前、楽屋にあったモニターにスピーカーの近くにいる子どもが映っていました。これは危険だって直感的に思ったんです。何の防御策も講じずに、ライブハウスに子どもがいるのは危険なんじゃないかって。スタッフが移動してくれないかと話に行ったんですけど「せっかく取ったチケットなので動きたくない」と。それで近くの量販店に探しに行ったんですけれど、イヤーマフは売っていなくてヘッドホンを貸したんです。

––– それは何年のことだったのですか。

 2018年です。

––– WHOが難聴に関する提言を出したのが同じ2018年でした。

 ここ数年、ライブの音をちょっと小さめにしている欧米のアーティストが増えてきたように感じます。それがどういう理由なのかはわからないけど、大きな音で鳴らすより、小さな音のほうが観客が注意深く聞くんじゃないかというのは、個人的な感覚としてはあ

ります。

––– イヤーマフの貸し出しについて、ほかのメンバーはどのような思いでしたか。

 このままじゃライブができないって楽屋で話したのが発端なので、気持ちは一緒です。ライブという場は文化として開かれたものでありたい。子どもだから聞いちゃいけないってことはないですから。だけど無防備なまま参加する子どもが増えてしまったのでは、入場を規制しなければならなくなってしまうかもしれない。防御策のひとつとしてイヤーマフを貸し出しする。音に関しては、子どもに限らず大人でも危ない場面があると思っています。ライブに行って耳が聞こえにくくなった。そんな子どもたちが自分たちの現場にいたとしたら、なんとも言えない気持ち悪さがあるっていうか。

––– 確かに、そうなってしまう子どもたちを生み出したくはないでしょうし。

 誰かを不健康にしようと思ってやっていることではないですからね。子どもたちの場合は、そこにいるっていうことを自分で選んだのかどうかっていうことが定かじゃない。大人が連れてきたのなら、大人が守るべきではないか。守ることが大人の義務なんじゃないか。

––– WHOの提言は、スマートフォンの普及によって音楽を聞くことが身近になったことが要因のひとつにあるといいます。

 音楽自体がパーソナルなものになっていますよね。音楽のシェアはデバイス上ではなされているけれど、みんな一緒に聞いてシェアするみたいな流れではなくて。自分のスマホからヘッドホンやイヤホンで聞いている。そういう意味では、音楽がすごく閉じている環境で鳴っている。自宅のパソコンで作られたものが、そのまま誰かのスマホに届けられたりする。一回も大きなスピーカーを鳴らさずに完結して、リスナーの耳に届いているっていうことも増えているんじゃないかって思います。

––– 閉じるということは、コロナという時代背景も大きかったのかもしれませんね。

 アジカンでも、同時に配信で音楽を聞きましょうっていうことをやったんですけど、結局はパーソナルな感じでしたものね。コンサートの現場は、コロナ以前はものすごく盛況でした。音楽がパーソナルなものになっているけれど、現場でリアルに体験することがどれだけ特別なことなのかって、みんながよくわかってその思いを共有しているからこそ、ライブやフェスに多くの人が集まる。コロナ禍で我慢していたものが、少しずつ解き放たれているように感じています。

––– 音楽を聞くことがパーソナルになっているからこそ、ライブという共有する場づくりもより大切になってくると思います。

 自分がどう聞こえているのかっていうのは、その人の感覚でしかないんですね。みんなが心地いいと感じた音でも、私にはちょっと危険って感じる。その感覚に正直でいいと思うんです。アジカンのライブに来てイヤーマフをしていたとしても失礼だとは思わない。どう聞こえているのかはあなたの問題であり、あなたの子どもの問題なので。人の目を気にすることなく、長く音楽を楽しむために、自分と自分の子どもを守って欲しいですね。ライブでも、誰の真似をしなくていいから、自分らしく、自分のスタイルで楽しんでもらえればと思っています。

––– アジカンを4人で続けるモチベーションはどこから生まれてくるものなのですか。

 難しい質問ですね。ASIANKUNG-FU GENERATION は、もはや自分たちのものだけではなくて、ファンの期待などもあってのバンドだっていうことはすごく感じています。その不思議な関わりの一部として、ひとつの物語の続きを楽しんでいるっていうか。自分たちが音を鳴らして、それを楽しんでくれる人たちがいる。どっちが先でもなく、ループしているような関係性になっていると思います。行ったり来たりしている間に増幅されているいろいろなことを楽しめているっていうことが、うれしいことだなって思っています。


後藤正文
1976年静岡県生まれ。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギターであり、ほとんどの楽曲の作詞・作曲を手がける。これまでにキューンミュージック(ソニー)から11枚のオリジナル・アルバムを発表。
2010年、自身主宰のレーベル「only in dreams」を発足。
また、エッセイや小説の執筆といった文筆業や、新しい時代やこれからの社会など私たちの未来を考える新聞『THE FUTURE TIMES』を編集長として発行し続け、2018年からは新進気鋭のミュージシャンが発表したアルバムに贈られる作品賞『APPLE VINEGAR -Music Award-』の立ち上げなど、音楽はもちろん社会とコミットした言動でも注目されている。
著書に『何度でもオールライトと歌え』『YOROZU~妄想の民俗史~』『凍った脳みそ』『朝からロック』など。
2018年からアジカンのライブで子ども用のイヤーマフの貸し出しを行っている。

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